列島雑魚譚 


HOME|海TOP|雑魚譚もくじ

ザッコロジー QandA 回答のぺーじ

 

ザッコロジストに対して寄せられた質問・問い合わせにメールや手紙などで回答をした記録です。整理をして載せるにあたっては、実際に回答をした文章に手を加えたり削除していることもあることをご了解ください。

 

ぼうずコンニャクさんより次の質問が寄せられました。

Q1―食用として利用されていた地域の事を教えてください。

Q2― また資料で手に入れられるものが有れば書名など教えていただきたい。

 

MANAの回答とメモです。

ぼうずコンニャクさま

1)食料として利用されて居る地域分布

 これは、けっこうたいへんです。いくつかの基本文献があります。

@田中茂穂著『食用魚の味と栄養』昭和18年、時代社刊。古いですが、それ以後、ぼくが一番尊敬する魚類学者でもある著者の見識を踏まえて全国の魚の食用としての利用を書いた本以上の本を見ません。ぼくの実はネタ本です。ここの「ウロハゼ」を引いておきましょう。味の素の食の文化センターにはありますから、興味があれば、一度ご覧になってみてください

「532 ウロハゼ  舞鶴付近でウロハゼという。「ウロ」は洞窟の義でもある。石の間や閘門付近にいるもので、純淡水や潮入りの湾入したところに居る。高知付近ではユルハゼという。ユルとはこの地方で内湾への田溝の水を吐き出すところにある閘門のことである。高知の潮江(ウシオエ)でゴリというのは本種であって、同市の旧市街地でのゴリはヨシノボリやボオズゴリのことである。高知では串へ刺して焙いて販売している。ちょっと、マハゼくらいの大きさになるが、鱗が大きいので、マハゼとは直ぐに区別ができる。味も之に劣る。静岡県浜名郡入出村(浜名湖沿岸)でオカメハゼ、クロハゼ又はナツハゼといい、夏にこれを美味とし、この地でマハゼをフユハゼといい、冬にこれを美味としている。」(田中茂穂著『食用魚の味と栄養』昭和18年、時代社刊)

とあり、ハゼツボ漁のように、ウロハゼを限定的に漁獲する漁法を持つ、したがって、独自のウロハゼ食文化を持つ岡山県周辺の瀬戸内海地域以外では、この記述は、とても参考になるとおもいます。

○ウロハゼ自体の分布は「茨城県・新潟県以南の本州、四国、九州に分布する。種子島にも分布する。(岩田明久)」(『日本の淡水魚』川那部浩哉・水野信彦編、山と渓谷社、1989年)ですから、おもに西日本におけるハゼの食用をチェックしていけば、ある程度の食用分布は把握できるのではないでしょうか。ぼくも、そこまで綿密に整理をしていませんが、田中博士の指摘するように、高知、静岡浜名湖沿岸、愛知県伊勢湾奥のほか宍道湖周辺などをマークすれば、具体的な記述が見つかるはずです。

A日本の食生活全集33『聞き書き岡山の食事』昭和60年、農文協刊。ハゼツボにより漁獲されたウロハゼの食用の記述は、この本にわかりやすく記されています。

〇はぜのいりもの

  はぜは、淡水、川口、海岸などにすむ、生活圏の広い魚である。はぜ壷(きんちゃく壷)の入り口をきんちゃくのようにしぼり、二つに折ったものを海岸近くにしかけておくと、たくさん入る。産卵期は冬の終わりから春で、夏から秋には海辺ははぜ釣りでにぎわう。春にもたくさんとれるが、味のよいのは、土用はぜと冬はぜである。土用にとれるはぜは黒はぜで、くさみもなく上品な味である。しょうがをたっぷりきかせた醤油味で煮て、いりものにする。白はぜは、秋から冬にかけておいしく、冬のはぜの味は最高である。いりものとして日常のおかずになるほか、正月雑煮のだしとして、こぶ巻きの芯として、なくてはならない材料である。

〇はぜの干もの

  秋にとれた白はぜは、正月用に干ものとして保存しておく。まず、はぜのうろこをとり、腹を破り、上から軽くおして内臓をとり出す。焼く前に数時間乾かしておくと、焼くとき、身がくずれなくてよい。焼いた魚の目に糸や串をさして、軒につるして干し、よく乾燥したら缶などに入れて保存する。生を干すと、乾燥に日がかかるし、保存中かびが生えやすい。煮干し同様に、水の中で煮ると、くさみのない上品なだしがとれる。

〇はぜのこぶ巻き

  おせち料理の一品として、必ず、はぜを芯にしたこぶ巻きをつくる。水でもどしたこんぶを、はぜの干ものを芯にしてくるくると巻き、少し固めに水でもどしたかんぴょうで結ぶ。水だけで弱火でことこと長時間炊くと、こんぶもはぜの身も骨もやわらかくなり、だしもよく出る。やわらかくなってから、砂糖、醤油で味をつけ、味を含ませるように弱火でもうしばらく煮る。

〇瀬戸内海沿岸(牛窓師楽)の海産物の利用

黒ハゼ:夏(6、7、8月)いりもの、干もの。はぜ壷縄。

白ハゼ:秋・冬(9、10、11、12、1、2月)いりもの、焼いて干しもの、こぶ巻き、正月のだし。はえ縄、釣り。

――ただし、すでにお気づきと思いますが、こういう資料を使うときには、ハゼを白ハゼと黒ハゼに区分していることを著者は知っていても、生態や漁法については素人ですから、勝手読みや、誤りの記述が混入してきますから、すべては信用しないように。伝統食自体は正しいのに、そこに魚種の説明を請け売りで生半可にするものだから、正と誤が入り混じってきます。

B「はぜつぼ漁業からみたウロハゼの生態」千田哲資・星野のぼる、魚類学雑誌、17巻1号 1970年4月15日掲載。これははぜつぼに関する、漁法、ウロハゼの生態に関する数少ない論文です。必要ならコピーしてお送りします。ウロハゼはそう言えば、天皇の研究対象でもありました。いくつも論文がありますよ。

(2002年12月15日)

○追伸 マハゼを焼いて「焼きハゼ」にするダシで雑煮にする習慣は、東京も現在でもやられていますし、仙台や茨城県などぼくが確認している地域は相当に広がりがあります。灯台下暗しで、ぼくの住む沼袋の近く新井薬師の商店街のちょっとユニークなお魚屋さんが1軒ありまして、そこで焼きはぜが売られているので昨年のお正月、はじめてはぜダシのお雑煮を食べました。

  そのときの焼きハゼの写真、今日写真を整理していて出てきたので、添付ファイルにして送ります。こんなに身近に焼きはぜが体験できるとは、思いもよりませんでした。

○ごづ(ハゼの焼き干し)の呼び名について

  「ごづ」の音韻は、ハゼやカジカの方言、愛称に現われる特長の「ゴ」と「ヅ」の重なりですから、とてもおもしろい用例です。ぼくも、焼きはぜを「ゴズ」というのははじめて出会いましたし、ほんとうに、このハゼとカジカの雑魚たちの世界の面白さは計り知れません。ハゼとカジカの地方魚名の中に、確かゴズがけっこう各地で使われていますし、祇園精舎の案内人である「牛頭天王」や、地獄の番人「牛頭馬頭(ごずめず)」の「ゴズ」に発音が近似して、何か関係があるかなとも思うのだけれど、たぶんなにも関係がないでしょう。それでも、牛頭大王の話は、民間信仰の中にとけこんで、いわゆるナマリの発音とも混じ合いながら、現代に伝えられてきているという、複合的な呼称の一つなのでしょう。

○ハゼとカジカの呼称起源についての文章は、「列島雑魚譚」に掲載してありますので、ごらんになってください。