浜に生きる 7 江戸前アナゴ筒漁師 小杉鶴吉さん〔補註〕


 

アナゴ筒(どう)漁法について

付:「静岡懸方言誌―民具編」(内田武志著、昭和15年)387頁〜「筌」の筌の図とその解説文

 東京湾におけるアナゴの漁獲方法は、内湾の千葉県側も、東京都も神奈川も筒(どう)はえ縄漁法が、現在ではすべてといっていい。内湾漁業が華やかかりしころは、ウナギは筒で、アナゴは、手繰り網やはえ縄で漁獲していたが、ウナギ漁が消滅してしまったのちは、筒はもっぱらアナゴの専用漁具になった。

 筒は、タケカンムリが示すごとく、モウソウチク(孟宗竹)や真竹(マダケ)を、そのまま使用して、ウナギやアナゴの入る部分に簡単なモドラズの仕掛けをつけたものである。現在では、塩化ビニール製のつつを利用して、片方を閉じ(可水流)、片方にモドラズとかカエリと呼ぶ円錐状の先端に切込みの入ったゴム板を取りつけ、200〜300本をロープでつなぎ、はえ縄状にして標し旗を取りつけて漁場に沈めておく。

 

 小杉さんの右手に持つのが塩ビ筒の本体。左手にもつのがモドラズ口。小さく開いた穴は、引き上げるときの水ヌキなどの役割を持つらしい。塩ビの中に生魚の餌を入れておき、モドラズ口から入ったアナゴが、中に閉じ込められるという仕掛けだ。

 本文中の、アナゴが赤を好むという経験則を、モドラズ口に応用し、写真右の右上に並べてあるように、赤のモドラズ口や、青、黒など季節状況に応じて小杉さんは使い分けているということだ。(下の写真は、朝しかけた筒を午後8時頃には引き上げ漁獲し、築地市場に直行し、接岸して卸会社の担当者に渡し活魚イケスにすぐ入れ翌朝の入札にかけられる。宵越しのアナゴは取らないという小杉さんがこだわる漁と水揚のスタイルを頑固に守り続けている。)

 

 

 

 

 

 

 筒は、漁業の種類としては、雑漁具(その他漁業)に分類されることが多く、漁具漁法としては、壷筌具(つぼせんぐ)に分類される。「壷」は、タコツボのような壷をさし、「筌」(せん)とは、竹を裂いて竹ヒゴにしたものを編んで、筒(つつ)や篭(かご)にした漁具である。筒も広い意味ではセン(ウケ)に分類され、このような漁具を、ドウやドと呼んだり、セン、ウケ、カゴのほか、モジリやモジ(静岡他各地)やエバ(九頭竜川)、ツツなど多様なバリエーションを持つ方言が記録されている。

 その1例として、手元にある資料から、「静岡懸方言誌―民具編」(内田武志著、昭和15年)387頁〜「筌」の筌の図とその解説文を転載しておきたい。 (MANA)

 

図解説

(370図) この形式の筌を作るには内側に竹か蔓などの輪を数個入れ、それを台にして其の外側に割り竹又は細竹を並列して之を数箇所縄で編み、口部より尻部になるに従って細くなり、末端は集まった竹を縄で束ね、縛ってある。捕獲物を取り出す時にはこの縄を解いて尻部をゆるめ、開くのである。口部には矢張り割り竹に細竹で編み作った漏斗型のコシタが結びつけてある。この図の材料は割り竹であるが、細竹や麦稈〔MANA注:麦わら〕等を使用する処もあって全てこの様な形式に作製する筌をこの図によって代表さした。大きさは、泥鰌や小魚などを捕る長さ1尺以下のものから川を堰いて使用する長さ5、6尺くらいのものもある。この形式の筌は大体県下一般に使用されて居る。

 

(371図) 之は皮付きの割り竹を以て籠の如くに縦横に組合せて編んで作り、尻部になるに従って細くなり末端は集まった縦竹を縄で束ね結んである。口部には同じ竹編みのコシタが取り付けてある。この形式は県下一般に使用される様で、形にも大小各種あり泥鰌雑漁等を捕獲する。

 

(372図) これは1本の竹筒で末端に節を残して縦に細く割り、之を縦竹にして他の割った竹を横竹にして籠状に編み、竹節は貫通してあって此処から獲物を出すのであるが、使用中は栓(草藁木栓など)をしておく。この形式の筌は小型である。

 

(372A図) これは前図と全く同一の作り方であるが胴部が膨らんでいて形が極く小さい。使用範囲も狭く遠州地方で二、三報告があったのみである。前図と同じく泥鰌小魚類を捕る。 

 

(373図) これは鰻捕獲用の筌で370図型と同様に割り竹等を並列して縄で数ヶ所編み結んで作るが形は細長い。コシタは口部と少し間を置いて胴部との二ヶ所に取り付ける処が多い。

 

(374図) これも鰻捕獲用で前図と全く同じ作り方であるが、胴部の後方が太くなって居る形式である。この図の膨らみはやや誇張過ぎたかも知れぬが此形式の筌は伊豆北部地方でのみ使用される。

 

(375図) これは表皮のついた割竹で籠の如く縦横に細かく編み細長い形に作った筌で矢張り鰻捕獲用である。コシタも割り竹で編んで一個又は二個取りつける。この図には割竹を縦横に編んであるが之を斜めに編む処もあるようである。

 

(376図) これは1本の竹筒を其侭鰻捕獲用の筌として使用するもので、末端の節のみ其侭にして中の節は貫通してある。口部には、割竹などを編み作ったコシタを取りつける。尻部の節には小穴を明けておくが、小穴は節の後部の中央に一個あるものと節の近くの幹に数個明いてあるものとがある。獲物を取り出すときには主にコシタを外して口部から出すが田方郡西浦村の鰻モジリの如く竹筒の尻部が開いて其処から取り出すことのできる様になったものもある。又コシタのない竹筒を矢張り鰻捕獲用に使用する処がある。

 

(377図) これは四角い木枠を口に置き、それに割り竹又は細竹等を並べ縄で数ヶ所を編み結んで作った筌である。口部には、矢張り竹編みのコシタを付ける。この形式のものは主に蟹捕獲用として使用される。

(378図) 之も蟹捕獲の筌で、割竹をもって目を荒く編んで作る。円筒状に目籠のように編んであるので這入った獲物は口部に取りつけたコシタを外して取り出すのである。この形式は、太く短く大体直径1尺くらい、長さ1尺5寸から2尺位で、蟹捕獲用である。これと同型に金網で作るところもある。

(379図) これは木又は竹を打ち付けて透しのある箱型に作った筌で、一方の側に入口を設けてコシタを付して置く。処によっては口部が四角ではなく半円形になったり其の位置が片隅に寄ったり等の相違があるが、ここにはこの1例のみをあげた。この中に餌を入れて置き主に蟹等を取る。獲物を取り出すには箱の後方などが開くようになっている様である。引佐郡気賀町のものは底にムシロが敷いてある。名称は蟹カゴ、蟹ウゲ、蟹モジリ等という。

(380図) 省略



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