味探検食単随筆 氷食論もしくは氷室論02/03
桑野貢三さんとの出会い
●も く じ●
01 まえおき 6月1日はなんの日? 氷の文化史ライブラリー
02 桑野貢三さんとの出会い
「氷のごちそう」
●田口哲也著「氷を愛す―ICE」を読む
氷と人間とのふれあいについて調べ始めたきっかけは、ニチレイの社内広報誌「フォーラム2101」(第40号、1991年6月20日発行)という雑誌に掲載されていた「氷を愛す―ICE」というエッセイを読んだことだった。この文章は、ニチレイアイスの田口哲也社長の長年の氷についての研究のうち、主に氷業史・氷の文化史の面についてまとめられたもので、「氷に恋して残る人生を燃焼させたい」「富山大学記念講演会―氷利用の歴史と現在と題して」というサブタイトルが付けられていた。
「氷」「ice」ひとつについても、水の変容物質としての科学的な性質を追求するのではなく、人間の社会文化史的な側面から、氷を利用してきた歴史を調べ始めると、中国やヨーロッパ、韓国からアメリカまで世界中でいろいろな人とのふれあいの歴史があることに新鮮な驚きをもった。これが、田口さんとのお付き合いの始まりであり、また田口さんが長年構想を練って集めてきた氷業史の歴史資料に文化史的な考証を加えた『氷の文化史』単行本発行へとつながっていくことになる。
そして、田口さんがお体を患っていたこともあり、1冊の本にするために田口さんが書き溜めた文章整理、新たな項目についての文章の補充のための資料探しを担当することとなり、その取材の過程で、ある方としりあうこととなるのである。
日本冷凍協会という、冷蔵・冷凍のハードウエアーのジャンルの製氷・冷凍機関係の会社や研究機関で作る団体が発行する『冷凍』という雑誌のバックナンバーを調べていて、氷室の研究をされ、同誌の編集委員もされ、投稿をされていた桑野貢三さんというかたがいることを、同会の事務局の方から教えていただく。
●氷室研究の第一人者、桑野貢三さんを知る
桑野さんは、昭和重機から日新興業を通じ、冷凍機械のエンジニアとして陸上・船舶を問わずあらゆるジャンルの冷凍・冷蔵装置の開発を手がけてきたかたである。大正11年生まれで、わが国の製氷・冷凍機の発展の歴史とともに歩んでこられた、まさにわが国「冷凍」技術界のプロ中のプロ、第一人者である。
1993年ごろ、氷の利用の歴史を調べはじめて、日本冷凍協会に、古いダンボール箱二箱に、明治時代の天然氷の利用に関する新聞の切抜きや、雑誌資料のコピーなど氷業史にかんする資料が残されていることを知る。そして、この資料を収集した皆川重男という人がどんなひとか、協会事務局のかたも、名前だけで、南千住在住ということぐらいしかわからないまま編集作業も終わり、1994年5月に田口哲也著「氷の文化史」は冷凍食品新聞社から発行されることなった。
この本の中では、皆川氏の氷業資料のコピーを使わせていただいたことをことわり、氏の所在をご存知のかたは、教えてほしい旨の記述を加えた。
協会事務局から、桑野貢三さんの連絡先を教えていただき、「氷の文化史」の著者贈呈したい旨を電話で伝え、皆川さんのことを伺うと、10年前に一度だけあったことがあるということで、南千住のご自宅の住所を教えていただいた。ちょうどよい機会なので、会おうということになり、お会いしたのが1996年7月のことだった。
○桑野貢三「冷凍機屋人生」(自家本)の紹介と氷業史関連論稿一覧(準備中)
○そのTOPに、桑野貢三さんのページを設けようと思う。桑野さんとは、千住に住む近代新聞の号外コレクターとして知られる皆川重男さん(残念にも1997年5月亡くなられたというお葉書をご家族から頂戴した)が収集されていた氷業史資料に着目した同好の士として皆川氏のお宅を訪問したり、皆川重男著『氷業史資料文献目録』にかかれた諸文献についての情報交換などを通じてお付き合いすることになった。現在、氷業史についての研究者としては全国でも数少ないエキスパートの方である。
○すでに、桑野さんご本人の了解もいただいているので、氏がこれまでに、まとめて自家出版されてきた「冷凍機屋人生」「同(続)」「同(続々)」「同(続々々)」「同(続々々々5集)妻の介護記」の5冊の本のなかには、氏の冷凍機技術者としての業績から冷凍→冷蔵→製氷→冷凍冷蔵史についての数多くの論考、エッセイが納められている。このなかから、製氷と氷蔵、賜氷と氷の文化についてまとめた「氷室雑話」と題するエッセイを中心とする文章をライブラリーに収めネット公開したいと思う。これらの文章の初出誌は、日本冷凍協会「冷凍」である。
以上、MANAによるテーマごとの本文記事にくわえ、前述した、皆川重男著『氷業史資料文献目録』のほか、手元には、著者の了解を得ている若手研究者の論文などもあり、逐一「氷の文化史ライブラリー」に加えていくつもりである。 (MANA)
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