BACK(39・そとがし)| NEXT(41・さつまや)

味探検 江戸前シリーズ 40(東京新聞1997年10月30日首都圏情報版「ゆめぽっけ」掲載) 

浦安・立花家(たちばなや)

小柱がプリプリッ、名物かき揚げ丼

 浦安文学賞の第1回受賞者三谷紀美さんの『浦安・海に抱かれた町』に引き付けられるようにこの町にやってきた。三谷さんの第2の故郷となった浦安。ここに住む漁師や船大工や花街の女将さんなど21人からの聞き書きをまとめている。
 浦安といえば「青べか物語」だが、新しい訪問者にとっては、あまりの変貌に周五郎描く浦安はまさに「異界」でしかない。隔たりをつなげてもらう案内役をこの本につとめてもらったという次第。本のなかですてきな言葉に出会った。

 「オレにはオレの味があるって、浦安の漁師の口にあった濃いめの独特の味を研究したんです。味さえ信用して もらえば、口コミで客はつきます。ツル(つながり)ですよ」
 ツルねえ。ツルツルっとつながった一人になってみよう。言葉の主が先代の橘正雄さん。「ガンコモノを輪にかけたような」と、2代目武司さんは、3年前亡くなったオヤジのことをいう。店の名物はたっぷり入った小柱のぷりぷりっとした感触バツグンのかき揚げ丼(上・1600円写真)。
 調理場の真ん中に置かれた「命より大事なガンコものが残してくれたアタリ」というタレをちょっとなめさせてもらった。この濃さが天ぷらとご飯を一体化させる。「ほら色っぽくなっているでしょう。青柳はほんのりと身がピンクがかるこれからが出花よ」と 、秋の小柱を、武志さんはそう評してくれた。(中島 満)

「立花家」メモ

浦安市猫実4ノ18ノ12。地下鉄東西線浦安駅下車、駅前スクランブル交差点をジャノメミシン側に渡り宮前通り1本目左折50 先公民館手前の路地左折突き当たり。(電)047・351・2818。カウンター3席、テーブル12席。2階25席。営業時間昼11時30分〜1時30分。午後5時〜9時。定休・日曜日。

注:記事内容は取材時のものです。現時点で価格・営業時間・経営内容等変更がある場合があることをご了承下さい。

取材メモ  三谷紀美著『浦安・海に抱かれた町』(筑摩書房。1995年刊)……僕は、その町をぶらぶらするとき、駅前の普通の本屋さんに立ち寄り「郷土の本ある」と聞いて、そのコーナーに置かれた地元の町紹介の本をチェックすることにしている。浦安駅の近くの本屋さんでふとめにしたこの本のサブタイトルが、「聞き書き 人と暮らし」とあり、目次を見て、浦安に昔から住んでいるいろいろな職業の人から、その仕事のこと、浦安のこと、戦前のこと、戦後のことなどを、聞き取りスタイルで記述してあった。ぼくじしんが、こういう手法の原稿を、よく書いているだけにすぐ購入した。紹介してる人の職業を揚げておこう。

「漁師」、「行商」、「魚屋」、「築地魚河岸」、「浦安魚市場」、「海苔仲買店」、「船宿」、「佃煮製造」、「船大工」、「漁師語り部」、「若い衆宿」、「浦安町役場」、「質屋」、「天麩羅割烹」、「寄席小屋」、「花街の女将」、「金魚養殖」、「ハスづくり」、「開業医」、「町誌編纂」、「浦安風景を描きつづけて」。いい本である。実は、浦安を味探検するときには、この本に大変にお世話になった。「立花家」も「さつまや」も、現主人のお父さんやお母さんを取材している。もっと何軒も記事にしたかったが、そうもいかないので、次回の楽しみに、図書館に出向き、その他の資料もしこたま仕入れてきた。浦安。興味の尽きない町である。

BACK(39・そとがし)| NEXT(41・さつまや)

HOME  江戸前Index  江戸前(千葉)BACK  天ぷらBACK

さつまや

味探検 江戸前シリーズ 41(東京新聞1997年11月6日首都圏情報版「ゆめぽっけ」掲載) 

浦安・焼蛤本舗  さつまや

香ばしさと絶妙な甘味、漁師町の風情満喫

 堀江、当代島に猫実という海沿いの集落が浦安のルーツ。昭和39年以降2回にわたり旧江戸川河口周辺が埋め立てられる。もともと約2キロ四方という県内でも最小の町は、4倍の1700 ヘクタールを擁する市に拡大した。

 浦安駅の南側に位置する猫実。ネコザネと読むが、地元の人にその名前の由来を聞いても「猫がたくさんいたから」という程度の答えしか返ってこない。堀江との間を流れる境川沿いを歩くと漁師町の風情を随所に発見することができる。

 周辺をぶらぶらして駅の方に足を向けると、ぷーんと香ばしい香りが漂ってきた。「こいつはうまいものと出会えそうだ」と匂いの発生源を探す。「焼きはまぐり」の幟(のぼり)がたつ店内では、4面のガラス戸越しに串に刺したむき身の貝を焼いている。「おばあさんがかつぎやさんの元締めのように慕われておりましてな。自分でも行商しながら貝のむき身を串刺しにして焼いて売り歩いておったんですが、評判になりまして、この商売をはじめた」と3代目を継ぐ泉沢クニさん。

 砂糖、醤油と味醂(みりん)だけというタレには、焼き貝のうまみが溶け込んで、「うちだけの味」になるという。1串アサリ30円、ハマグリは90円。あさ炊きしぐれアサリ100グラム365円。1串単位の他、1300円からの進物用詰め合わせもある。コゲとタレのかげんが絶妙の味を作り出す。こいつは脱帽ものだ。(中島 満)

「さつまや」メモ

浦安市猫実4ノ16ノ24。地下鉄東西線浦安駅下車、駅前スクランブル交差点をジャノメミシン側に渡り宮前通りに入り200 公民館先の猫実第4郵便局の向かい。歩3分。(電)047・351・2806。営業時間前9時〜後7時。定休・月曜日。

取材メモ  注:記事内容は取材時のものです。現時点で価格・営業時間・経営内容等変更がある場合があることをご了承下さい。

HOME  江戸前Index  江戸前(千葉)BACK  佃煮BACK

BACK(40・たちばなや)| NEXT(42・志乃ぶ)


copyright 2002〜2010,manabooks-m.nakajima 

edomae,urayasu,kakiagetendon,kakiage,tendon,tenpura,yakihamaguri,

tatibanaya,tachibanaya,satumaya,kobasira,kakiagedon