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Notes-aji01 「ツルツル〜」のご縁ってどんな意味?

 味探検は、スタート当初、「江戸前」シリーズという切り口で、東京湾を神奈川の観音崎から千葉県の富津岬をぐるっと海沿いの街におもに魚貝類の味を求めて取材をしてきました。新しいベットタウンと青ベカ物語で有名な元漁師町・浦安の取材を始めるとき、どんな味があるかなあっとぶらりとマチを歩いた後、『浦安・海に抱かれた町』(三谷紀美著)という本を、駅前近くの本屋で見つける。読んでみたら、浦安に暮らす古老たちの語りを、軽快な文章で表現している内容に引きこまれてしまった。

 漁師、行商、魚屋、船宿、佃煮製造、船大工や天ぷら店などのプロフェッショナルな職人さんたちへの聞き書きを中心に描いているなかに、「橘正雄さん」の記事があった。天ぷら屋さん「立花家」先代主人である橘さんのことをさらに聞きたくて、店を訪ねた。とてもおいしい青柳の小柱のかき揚げどんぶりの話として書いた記事は、『立花家』の項で読んでいただくとして、この本の中で「橘正雄さん」の口癖であったというなんともユーモラスな「味さえ信用してもらえば、口コミで客はつきます。ツルですよ」という江戸っ子の商売感覚と、「ツル」という言葉にすっかり感心をしてしまった。

「つながる」という意味だそうだが、「つ」「る」の間の「なが」を省略したのかどうかはよくわからないが、江戸っ子特有の言葉の短縮感や、漁師言葉の感じがとてもよく出ていて、ぼくの文章にも、使わせてもらうことにした。

 「つるつる〜と」味や人情がとりもつご縁が大切なんだよと、いう橘さんの言葉を、ぼくの味探検の原点にしようと思ったわけです。

 「頑固者を輪に掛けたようなおやじでした」と3年前(取材時)なくなった橘正雄さんのことを語ってくれた息子さんの武司さんが揚げる名物かき揚げのどんぶりをいただきながら、隣の宿屋によく泊りに来ていたという詩人草野心平がおやじさんと珍妙な会話を繰り広げていた話を聞いた。

 いろんな人との出会いがあり、そこからまたつぎの出会いへとつながる味の話題を探しにぶらりと歩いて旅に出よう。

三谷紀美著『浦安・海に抱かれた町―聞き書き 人と暮らし』筑摩書房、1995年刊

 

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