浜に生きる 2 


essay,interview

命あふるる干潟の海・有明海 映画監督 岩永勝敏さん

 

普賢岳が“海を守れ”と怒っている

 

 有明海(ありあけかい)。福岡、佐賀、長崎、熊本4県をぐるりと取り囲み、総面積1800平方キロという、とてつもないスケールをもつ世界でも珍しい泥質干潟の海だ。
 岩永勝敏さんは、この海と、生き物たち、そして漁師たちにカメラを向け続けている。5年前、自主制作映画『干潟のある海、諌早湾1988』を完成させた。この作品は、1992年、イタリア・サルジニア島で開かれた第4回国際海洋ドキュメンタリー映画祭で金賞を授賞した。

 

 「僕は農家の長男坊、子供のときから海は風景として見るものでした。その干潟の海が、諌早湾の干拓事業がはじまり、風景がみるみる変わっていく。はじめは池も自然も何も分かっていなかったが、これは映像で記録しておくほかない」

 東京でのカメラマンの生活をひきはらって、有明海の奥懐、佐賀県鹿島市七浦に漁師から家を借り、住み込んでしまった。
 一升瓶かかえて漁師と語りあい、昼間は泥と格闘しながら干潟の生物たち、貴重な漁の映像をとりまくった。


 「自分の撮り方は潟スキーや、小型船を自分で操りながら干潟に入り込む。漁師が目で追うムツゴロウの位置までアングルを落としてかまえる。干潟の生物の目線で撮影してみたかった」

 

 というだけあって、作品には、干潟の生物たちの躍動感がズンと伝わってくる。

 そして、第2作品の『生命―いのち―あふるる干潟の海・有明海』が完成した。
 16ミリカラー約1時間に、ユーモラスなムツゴロウ、トビハゼたち、シオマネキの群舞、鯛に恋して目がつぶれたという奇怪な姿をしたワラスボ、ミドリシャミセンガイなどの貝類といった干潟の役者たちが、映像で迫ってくる。

 岩永作品には、潮の干満差を利用したユニークな漁師たちの漁法が20以上も次々と紹介される。胸まで海水に浸かりながら潮先に乗って泳いでくるイナダやボラなど浮き魚を4、5メートルも幅がある網を操ってすくい上げる、「ちょっとすき」漁法。有名なムツゴロウの引っかけ釣りを「むつかけ」という。
 ウミタケとりは、ミルガイのような大きな水管をもったウミタケを頭だけだした格好で、手を泥に突っ込んで掘りとる。ワラスボ掻きは、潟スキーにのりながら、鉄製の掻き棒を弓のようにしなわせて、泥の中を掻きながらの引っかけ漁だ。
 圧巻は老漁婦が泥にはいつくばるようにして、30センチ程の筆の穂先を干潟にあいた穴に突っ込んで見事にシャコを釣り出すアナジャコ釣り。「しゃっぱ釣り」ともいう。
 もう、どれもが「名人芸」だ。ワラスボじゃーないが、「眼がテン」になってしまいそうだ。

 しかし、「これも、この映像に登場する老漁師たちで終わってしまう。後継者はいない。この干潟に生きる生物たち、漁師がいてこその美しい自然なのだが」

 

 と、岩永さんは環境の激変を悲しむ。


 干潟の泥に浸って撮影していると“とーろとーろ”と、まるで母親の胎内にいるような温もりを感じるという。干潟こそが太古の生物誕生の母胎となったことを確信できる瞬間だそうだ。
 ある漁師が語る。「普賢岳の噴火は、足元の豊饒の海をいためつけたから怒っているんだ」と。有明海から全国の漁村へのメッセージである。

 

〈記録映画『生命あふるる干潟の海・有明海』16ミリカラー56分 ナレーション左幸子/お問い合わせは潟Cワプロ・電話092-475-4293〉

MANA
――全国共済水産業協同組合連合会(共水連)機関紙『暮らしと共済』1994.82掲載

TOP



HOME    海BACK  浜に生きるINDEX    次03▼

 


投稿・ご意見はこちらへ

copyright 2001〜2004,manabook-m.nakajima 

hamaniikiru,ariakekai,iwanaga,iwanagakatutosi,iwanagakatsutosi

hugenndake,higata,mutugorou,mutsugoro,mutsugorou,isahayawan