浜に生きる 8


日本一のマグロ漁師山田重太郎さん

「ウオミザクラ」から学ぶもの

 

 俳優・松方弘樹から親分、先生、師匠と絶大の信頼をうける。山田重太郎さんは、松方出演のマグロ釣り番組では、釣りの師匠役で登場するから、いまや全国ネットの顔になっている。
 大正11年生まれ、神奈川県三崎港のマグロ漁業会社住吉漁業の漁労長として、七つの海にマグロを追い、数えきれない伝説を生んだ。大西洋、地中海、メキシコ湾、ブラジル沖など、当時はまだ未知の海域だったマグロの新漁場を数多く発見した。
 山田さんが率いたマグロ船の一航海(半年)10億円の水揚げはいまでもかたりぐさになっている。山田さんの、こうしたマグロ大漁の秘訣はどこにあるのだろうか。
 マグロのこころを知ることであるという。マグロだけではない、マグロを襲うシャチや、海の愛嬌ものイルカや、サメなど、すべてのサカナたちのこころを、山田さんは知りつくしている。

 「わしが戦後すぐにカツオ船に乗ったときだった。三重に乗組員を乗せるためにいったんだが、その村の古老が、『もうカツオがきとるよ。ハナガツオじゃよ。』とつぶやいた。沖にもでないでなんでカツオがいることがわかるのだ。ハナガツオとはなんだろう。うどんのダシのわけないしな」。


 山田さんが不思議そうな顔していると、その古老が、このムラにはカツオが沖にきたことを知らせる桜の古木があるのだと話してくれた。
 黒潮の北上とともに桜の花が咲いていく。その暖流にのってカツオも北にむかい、鎮守の森にあるウオミザクラが咲くと、沖合にカツオの漁場が形成される。地元の漁師たちは、桜のツボミを観察しながら漁の準備をし、開花とともに船をだす。

 「ははー、そうなのか」と山田さんはそのとき悟る。

 「自然のリズムなんだ。名人といわれる人はこれを知っているんだな。」

 ウオミザクラとは、「魚見桜」のことだったのだ。

 マグロ獲り名人、山田さんの原点はこのときにあるのだという。


 「わしはそのとき目覚めたんだ。無線の情報やグループの暗号なんかは信用でけん。ひとより多く釣ろうと思っているやつが本当のポイント=漁場のことをだれが知らせるものか。自然がいちばん正直や。サカナの行動を観察する。海の水温、色、そして匂い。海面を飛ぶ鳥。あらゆる漂流物。生きているものも生命のない物質もすべて海にあるものを五感でとらえることだ。自然のリズムが分かればサカナのいる場所がわかる。あとは釣るだけだ。」

 二心一眼。山田さんは、サカナのこころを知ることだという。
 つまり、サカナたちが次にどういう行動をとろうとするか、サカナたちにも五感があり、それにしたがって行動するということを知ることである。次に、一緒に働く人のこころをつかむことだという。リーダーのふとっぱらをもつことだ。
 そして、すべてのものを冷徹に判断する科学する眼をもつことが名人に共通するものだと教えてくれた。
 すでに漁労長を引退した山田さんだが、二心一眼の極意を学びたいひとから引っ張りだこの大忙しの毎日。

 「わしには引退はないよ。わしの知っていることを勉強したい人にはなんでも話す。」「年寄りには年寄りの漁法があって、沿岸漁業でもサカナを呼びこんで漁をすればいいんや。マグロもなつくしタイだって同じだ。魚釣るには海があればどこでも釣れるんや。」

 サカナのこころをつかんだ山田式スーパー釣りマニュアルの映像化にもっか取り組んでいるそうである。
「一匹オオカミになれ」山田さんから沿岸の若い漁師たちへのメッセージである。人まねでない自分だけの稼ぎ場所をつくれということだろう。(MANA

――全国共済水産業協同組合連合会(共水連)機関紙『暮らしと共済』1995.90掲載

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