なんともグロテスクな格好をしたアンコウだが、鍋にして食べる味は絶品である。
かの益軒先生も、フグもうまいが「毒のない魚ならタイ、アンコウ、コチが美味」と妙な対比をして持ち上げている。江戸のころから通人好みの食だったよう、で、アンコウが出回る旧暦11月からの冬場は高価で、「春に至り安値になると衆人の食するところとなる」とも書かれている。
築地市場でのアンコウの卸値は、12月ともなるとキロ当たり3000円近くなる。それでもフグに比べ安値感があり、スーパーの鍋セットなどにも登場、昔の郷土料理のイメージも最近は全国区の顔になった。
「うちの場合も11月中旬から菜の花の咲くころまでの扱いですが、この数年特に注文が増えました」と言うのは築地に店を開いて50年という小倉みゑさん。吊るし切りで料理する板場の巾田範雄さんが出してくれる、ボリュームたっぷりのアンコウ鍋(1人前3000円・2人前から)をポン酢で食べる。すっかりこの店の看板料理となった。
「心の赴くままに」という意味が店名にあるという和服に割烹書姿の小倉さん。京風おばんさいが何種類も置かれたカウンターごしにママとかわす「すすろなる」会話が楽しくて通う客も多いとか。(中島満)
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